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「薬用遺伝子資源実験プロトコール」より「はじめに」の抜粋

 当研究室は1994年(平成6年)にスタートした全国でも唯一の薬用資源の遺伝子応用を専門とする研究室である。通常、このような研究は生薬学教室のなかの一つのプロジェクトとして行われるにすぎなかった。したがって、当研究室がこの分野を常にリードしていくことが期待され、その責任を担っていることは、その誕生の経緯からしても明白である。社会において人間一人一人の立場や役割があるように、研究室一つ一つも立場や役割がある。当研究室は、常に薬学の植物バイオテクノロジーの分野でリーダーシップをとると同時に、世界的なレベルで植物の基礎研究の第一線に居続けなければならない。つまり我々は常に一部リーグのプレーヤーでなければならない、二部リーグでは許されない。研究室員はこのことを自らの誇りとし自覚をもって研究に励んでいただきたい。研究室を出た後も、周囲から期待されるのでこの誇りと自覚を持ち続けていただきたい。
 私は研究室が人の集まる社会である限り、基本的には個人の自由な精神や行動が制限されるべきではないと考えている。むしろ、個人の自由な精神を尊重することは研究にとって最も大切なオリジナリティーの源泉である。しかし、共同作業という面をも持ち合わせている研究室における日々の実験において、守るべき最低限のマナーを知らなければならない。研究室における唯一の共通の目標は、質の高い研究をすることである。・・(中略)・・研究室の構成員一人一人の研究成果があがり、世界的に注目される研究成果が生まれ続けるように希求いたします。

1996年12月 斉藤 和季

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大学院教育、学部教育について

1. 大学院教育の目標

1-1) 一人立ち出来る研究者(博士課程修了者、ポスドクなども含めて)の一般的目標

 これは「一人立ち出来る研究者(博士課程修了者、ポスドクなど)」の一般的目標です。博士課程修了者は博士号を取得することになります。博士号を持っているということは、研究社会での運転免許証を有することと同じなので独立した研究者と見なされます。従って、博士課程では一人立ちした研究者になるための基礎を5年間で(あるいは3年間で)学びます。特に、実験技術だけではなく(実験技術は時代とともにすぐに陳腐なものとなります)、科学的な思考方法や問題設定の仕方を学ぶことが重要です。多くの重要な科学的発見は、”何を明らかにしたいのか”、”どういう問いを発して、どういう答えが得られたら満足するか”という直接的で重要な問題設定(このことを「ある問題をアドレスaddressする」といいます)をしたときになされます。
 研究をはじめ創造的な事業は以下のような五つのレベルの作業から生まれます。一人立ち出来る研究者になるためには以下のすべてについて自分自身で責任を持たないといけません。しかし、それに至る道は長く大学院博士課程修了だけでは不可能です。でも、最終目標はここに置くべきです。

  • Philosophy(思想、哲学)
    何故、何を知りたいのかという研究の最も大事な部分です。多くの場合教授などPrincipal investigator (PI)の寄与するところが大きい部分です。しかし、教室員も常にPIと議論しなければいけません。
  • Strategy(戦略)
    思想を実現するための大局的な戦略です。主たる手法(分子生物学とか、生化学とか)や材料(植物、シロイヌナズナ、イネ、酵母、微生物など)の選択が含まれます。
  • Tactics(戦術)
    戦略実行のための局所的な戦術です。どの単離プロトコールを使う、どのベクターを使う、どのアッセイ法を使うなど。
  • Battle(戦闘)
    毎日の実験に相当します。時には馬車馬のようにしゃにむに実験することが必要です。しかし、Philosophy やStrategy, Tacticsを理解せずに Battleだけやっていても決してうまくいきません。
  • Logistics(兵站)
    実験のための材料、試薬、機器の供給のことです。Logisticsをないがしろにしてはどんな高邁な思想も実現しません。

1-2) 博士課程大学院生の具体的目標

a. 論理的な問題設定と解釈の仕方

    • 何を知りたいのか
    • 何が重要で、何が重要でないか
    • 従来の知見と矛盾しない論理的な仮説の設定
    • 問題解決のための論理的なアプローチの方法、決定的で直接的な仮説証明のための実験計画
    • 実験結果の論理的な解釈、仮説の検証

b. 実験および関連技術

  • 日常的な分子生物学的手法、生化学的手法、植物生理学的手法の習熟
  • 分析機器やコンピューターによるいろいろな仕事の習熟

c. 基礎知識と社会センス、国際センスとスキル

  • 薬学、ゲノム関連科学、植物科学、生物学、天然物科学などの基礎知識
  • 社会において責任ある一人の科学研究者としての考え方と行動(社会センス)
  • 科学研究者として国際的に通用するセンスとスキル(国際センス)

d. 研究遂行上の基本スキル

  • 日常の実験ノートの取り方
  • 研究ディスカッションの仕方(日本語および英語)
  • 論文、ウェブなどからの情報収集
  • 学会発表(口頭、ポスター)とそこでの討論の仕方
  • 論文執筆の仕方、編集委員やレフリーとの対応
  • 各種応募書類、申請書類の書き方、プレゼンの仕方

1-3) 修士課程大学院生の目標

 基本的には博士課程大学院生と同じ目標をもって学びますが、2年間という短い時間ですので、すべての目標を達成することは難しいかもしれません。特に、問題設定の過程はとばしてすでに設定された問題に取り組むことになります。しかし、社会に出てからは高度技術者として研究の基本的な事は知っているものと周りから期待されますので、研究の基本は身につけなければなりません。また、一人立ち出来る研究者の目指すべき目標についてはよく理解していないといけません。

2. 学部4年次卒論生の目標

まず、薬剤師免許を取ることが第一目標です。次に、社会のなかの科学者として一般的な基礎知識を持ち、かつ自分の考え方を持つことが大切です。大学院に進学する人は上記の大学院での目標に向かって進みましょう。


1) 実験室でのお作法 −基本の基本−

共同作業について

  1. セミナー、共同作業開始などの集合時間を守る。
  2. 共同で行う作業(掃除、機器類の廃棄・移動など)はみんなで協力して行う。

試薬類について

  1. 試薬は常に「試薬カード」に記載された場所に清潔、整頓して置いておく。また「試薬カード」にない新しい試薬を購入したらカードに記載して登録する。
  2. 共通試薬類(buffer、培地など)のラベルには、試薬名、必要ならば組成、作成日、氏名を記入する。オートクレーブした試薬は「オートクレーブテープ」を貼っておく。
  3. アイソトープやキット類が入荷したら「プロダクトホワイトボード」に、入荷日、製品名、ストック場所(冷凍庫の場所など)、氏名、を記入する。
  4. 常備試薬・物品はあらかじめ余裕を持って注文する。(発注から納品まで通常1〜2週間かかる)

共通器具類について

  1. 共通器具は常に清潔に保ち、整頓しておく。そのためには、使用者は、使用後必ず掃除をすること。
  2. 共通器具類の担当者は当該器具のメインテナンスに責任をもつ。
  3. はじめて使用する機器は、まず「使用説明書」をよみ簡単な機械の動作原理を理解してから使用すること。

廃棄物について

  1. ごみ、空き瓶などは指定された方法に従って分別してすてる。
  2. 有害廃棄物は指定された区分に従って廃溶媒タンクにすてる。
  3. 組み換え体生物(大腸菌、アグロバクテリウム、トランスジェニック植物など)はオートクレーブしてから廃棄する。

2) 実験の進め方

有効に実験を進めるためには、次のような日常的な作業を効率よく行うことが必要である。

  1. 考えること
    (以下のことのイメージトレーニング:仮説の設定、実験の準備、遂行・段取り、そこで進行する化学的・生物学的現象、実験結果の解釈、仮説の検定・訂正)
  2. 手を動かすこと
    (実験の準備、実施、後かたづけをすること、実験ノートを取ること、結果を発表できる形にまとめること)
  3. ディスカションすること
    (仮説と実験のデザイン、方法、結果の解釈などについて共同研究者とディスカッションすること。毎日だれかれに相談しディスカッションするオープンマインドな姿勢が大事)
  4. 読むこと
    (関連文献を読むこと、実験プロトコールを読むこと)
  5. 書くこと、発表すること
    (学会要旨、発表原稿、論文を論理的な筋道で書いて発表すること)

3) 実験ノートの書き方

 実験ノートは最も重要で一次的な研究情報であり、実験者以外の人がその実験ノートを見て実験を再現できなければならない。実際に、何年か経てから他の人が実験ノートどおりに追試したことがある。また、最終的な研究のプライオリティーやパテントは、新しい科学的な事実が標準的な方法によって記載された実験ノートの日付によって与えられる傾向もある。従って、実験ノートを常に傍らに置き、毎日、研究に関するすべてのことを簡潔に漏れなく記載しなければならない。1日の研究に費やす時間の内10−20%前後がノートに書くこと(ノートを書きながら考えることも含めて)に当てられる。

実験ノートに記載されること

  1. 年月日
  2. 当該実験の立案、討論の内容、仮説
  3. 試薬の名称、カタログ番号(場合によってはロット番号)、分子量、純度
  4. Buffer類の調製法
  5. 反応液の組成(実際にいれたvolumeと最終濃度、サンプルチューブのラベル)
  6. 温度・時間
  7. 測定機器の条件
  8. 結果
  9. 考察、仮説の修正、結論

実験ノート記載上の注意

  1. 黒のボールペンで決められたノートに記載する。鉛筆は使わない。また、間違ったところは修正液を使わず、線を引いて修正する。大きな余白は斜線を引いておく。
  2. 色鉛筆やカラーマーカーを使ってわかりやすく記載する。
  3. ゲルの写真、クロマトグラムなどのデータも必要な部分だけを切り取りノートに貼ること。ゲルの写真の場合は各レーンのサンプル、サイズマーカーのload量を写真の上に明示する。
  4. DNAサンプルなどは年月日、サンプル名(濃度)、名前を小ラベルに書き、スコッチテープでサンプルチューブに貼りフリーザーに保存すると同時に、ラベルに記載した通りのことをノートに記載し、保存場所を明示する。これにより実際のサンプルとノートの記載が一対一に対応できる。
  5. 一連の実験を整理したデータ、仮説、結論、まとめなどもノートに記載する。
  6. 卒業するときは、実験ノート、データを整理してひとまとめにして研究室においていく。自分のためにコピーを持っていることはもちろんかまわない。

4) 文献の読み方と整理

  1. 文献は休日などにまとめて関連文献を5、6報づつ読んでいくと能率が上がり身に付く。特に、関連文献はまとめて読むのがよい。特定領域にすばやく精通できる。特に同一グループから出されたの一連のシリーズものなどはまとめてよむ。
  2. 論文を読み始める前に当該論文をよむ目的を明確にしておく。自分の実験結果との対比をしたり解釈をするためなのか、新しい研究展開のアイデアを得るためなのか、単にある実験技術を応用するためだけなのか。
  3. 自分の研究に非常に近い大事な論文はすみからすみまで丁寧によむ。自分の実験を進めながら間をおいて何回か読み直すことも必要である。
  4. 一報の論文を読み始めたらできるだけ短時間で最後まで読み通す。
  5. 本文中大事なところはカラーマーカーや色鉛筆で印をつける。読み終わったら、論文コピーの1ページ目の上の空欄に色鉛筆、色ボールペンなどで当該論文の要点をメモする。これが非常に大事な作業である。後々必ず役に立つ。
  6. 複雑な内容の論文であったり、論文の背景を知る必要のある場合は、上記の要点メモだけでは足りない。その場合は、A4の別紙(升目のあるレイアウト用紙がよい)に必要事項をまとめる。論文の背景、実験手法、結論への論理構成、ディスカションの展開、問題点、など。この用紙は論文コピーとともにファイルする。
  7. 論文の著者一人一人に思い(?)を馳せる。同一グループからの一連の論文には一貫した思想や手法の流れがあり、次にでてくるであろう論文もその流れの中にあるはずである。研究はスーパーマンやテレビドラマの主人公がやっているわけではなく、結局私たちと同じ一人一人の生身の人間の所産である。
  8. 読み終わった論文はまず内容項目で分類し、同一項目内は発表年順に新しい論文を上にして整理する。ばらばらにしないため、必ず2穴のバインダーでとじる。
  9. そのため、コピーは左側をあけてとり、左上をホッチキスで1カ所とじ、A4の冊子型とする。コピー冊子の1ページ目は論文の第1ページがくるようにする。きれいで鮮明なコピーをとること。コピーのコピーはやむを得ないとき以外にしない。原報からコピーする。
  10. 論文読みの手抜き(?)の仕方:限られた時間にたくさんの情報を得ようとするとき、以下のような段階的な効率化の方法がある。(1) タイトル、著者、アブストラクトだけ読む、(2) (1)に加え図、表を見る、(3) (2)に加え序論をみる、(4) (3)に加え結果あるいは方法の必要なところだけ見る、 (5) (4)に加えディスカッションなどの残りを見る(すべて見たことになる)。

5) はじめての学会・論文発表イロハ

  1. 学会や論文発表の形式は決まった形がある。自分勝手なやり方は決して通用しない。はじめての発表は過去の形式を忠実にまねるべし。
  2. 学会の数カ月前に要旨を提出することになるが、要旨は関連する研究の前回までの発表要旨をよく見てから書くこと。その形式も参考にする。研究は連続している。
  3. 自分のデータを整理して図や表とし、それらのアイテムをもとにストーリー(論理)構成を考える。この段階では手書きでよい。古いデータとの整合性に注意する。
  4. データ中身を一つ一つをチェックしながら、手書き原稿をもとにアイテムをワープロに入力する。
  5. ポスター発表では、Abstract, Introduction, Materials and Methods, Results, Discussion (またはResults and Discussion), Conclusions, References に分けてテキストを書く(前回の発表を参考にしながら。まず、手書きそれからワープロへ。論理的な日本語で!)。これらに図表などのアイテムが加わる。
  6. 写真などは早めに作る。(自分は急がせても、写真屋は急がせられない)
  7. 1枚の図表(スライド)には1つのことだけを書く。また、同じデータは一度だけしか提示してはならない。
  8. 図表のタイトルの付け方、脚注の付け方、文献の記載の仕方、などは当研究室から発表されている論文を参考にまねする。(自分勝手の付け方をしない)
  9. ポスター、OHP、スライドの字はゴシックやヘルベチカのように太い字を使う。ポスターではA4紙に18ポイント以上で書く。スライドではそれ以上のポイントで。
  10. 発表原稿を書く。論理的な日本語で!特に口頭発表では、目的、実験、結果、結論の論理の筋をすっきりさせる。
  11. 発表の練習をする。口頭発表では暗記し、ポインターで指し示す練習もする。言いにくいところは言いやすい言い方に変える。通常、10分の講演ならば5回位練習すれば暗記できる。メリハリの利いた声で。
  12. 想定質問を考え、その答えを用意する。グローバルな質問から、実験の細部まで質問されそうな点を入念にチェックする。学会発表の神髄はこのディスカッションの時にある(眠っている人も目を覚ます)。
  13. 学会が終わったら質問された点をチェックする。外部からの批判を受け入れ反映させることは自らの向上には最も重要な不可欠の作業である。また、何度も同じ質問をされることも多い。

よりよく進めるためのラボチップス (その1)

§朝、三つの仕事をスタートさせること

 朝、早く来て午前中に三つの仕事をスタートさせる。午後はそれらの仕事を終了させるだけの事で相当にはかどる。そのためには、前日の帰る前に次の日の三つの仕事の準備(バッファー、試薬、機器準備など)を済ませておくことである。

§人の3倍努力しようと思うこと

 抜きんでようと思えば、まず人の3倍努力しようと思わなければならない。3倍努力しようと思って事に当たれば、人の1.5倍実行できる(3倍努力しようと思わなければ実行できない!)。1.5倍実行できれば成果は1.2倍得られる。実はこの高々1.2倍の成果が大事なのである。ほとんどすべてを決定する。

§常に研究について考えていること:または研究者としての自負について

 自分のテーマ、研究については実際に実験に携わっている研究者(大学院生など)は100%の時間それについて考えているはずである。グループリーダーはグループメンバーの人数分考えるわけで、100%割る人数分の時間しか一つのテーマを考える時間がない。ましてや教授となれば100%割る教室員分である。従って、一人一人の研究者はグループリーダーや教授と議論して打ち負かされる訳がない(理論的には)と思うべきである。打ち負かされたらまだ考えが足りないのである。

§研究に devote すること

 成功しようと思うなら、自分自身を研究にdevoteせよ。ある期間の自分の生活(人生とは言わない)における第一プライオリティーを研究に向けよ。朝起きてから夜寝るまで、短い食事と用足し以外を研究に関する事に向けるべきである。必ず成功はある。

§努力して実らぬ事はない(例外なしの経験則)

 経験からして、努力の結果が実らなかった事例は皆無。努力は何らかの形で必ず報われる。得られる報酬は遅ければ大きく、早くてもそれなりに喜びが得られる。この点については間違いなく楽観的であっていい。

§自分への先行投資

 自分への先行投資(経済的、時間的、エネルギー)は積極的にすべきである。もったいないと思わずに前向きに投資することが必要である。特に、自身の身につく技術や知識に対する先行投資に対して逡巡してはならない。

§興味を広げる勉強

 現在自分が行っている研究テーマに関連した分野の勉強を些々怠りなくすべきである。自分の研究テーマをより客観的に見られるようになるし、視野もひろがる。そのためには、セミナー室の新着専門雑誌には必ず目を通して興味のある論文はコピーしてすべて分からなくても読むべきである。文献紹介で1報の論文を紹介したとしても、その裏では5報の論文を読み、20報の論文についてはタイトルとアブストラクトを読むべきである。そのためには毎日2〜3報の論文コピーは家に持って帰る。テレビドラマを見る代わりに文献を読むべきである。大学院生が手ぶらで家と大学を行き来しているのを見るとがっかりする。

§できる人を評価し尊敬し学ぶこと

 世の中にはいろいろな面で自分よりよくできる人が実に多くいる。そういう人をまず評価し尊敬して、自分には何が足りないのかどうすればよいのかを、それらの人たちから学ぶことが大切である。多くを学べば多くの糧になる。

§研究をエンジョイせよ!

 研究は本来楽しいものである。特にうまくいった時は、テニスのラケットのスイートスポットにあたった会心のショットの手応えや、野球でボールがバットの真芯にあたった時の快感と同じである。この大きな喜びに至る過程にはつらい道のりも多い。しかし、そのなかでも研究を進める上でのいろいろな要素(新しい概念との接触、新しい機器や技術の習得、研究室の人とのつきあい、学会への参加、同業者との交流、など)についてエンジョイできる。これらの研究過程上の要素についても楽しむことが大切である。

§休日の過ごし方(1)

 休日はそれぞれそのときの状況に応じて自分にあった過ごし方をすればよい。実験が佳境に入って明日にも最新のデータを出したいときは休日に来て実験をすれば人が少ないため普段よりも集中してできるだろう(研究に打ち込んでいる人には休日に来るなといっても来てしまうものだ)。論文を書く前であれば文献を読んでイントロダクションやディスカッションをどう書くか考えるべきである。数週間オーバーワークであれば全く仕事から離れるとがよかろう。

§休日の過ごし方(2)

 例えば土曜日の朝に来て金曜日から動かしている機械を止めたり、日曜日の夕方に来て菌の前培養を始めるなどの短い時間の工夫によって研究の能率が格段にあがる。ヨーロッパの研究室は週休二日で優雅にやっているように見えるが、日曜の夕方には約半分くらいの大学院生が来て月曜日の仕事の準備をしていた。

§プロトコール、先輩の伝聞について

 プロトコールに書かれていることや、先輩からの伝聞による実験手順は、まず自らその理屈を理解してから取りかからなければならない。先輩からの伝聞が”伝言ゲーム”のように途中で間違って伝えられている事もある。理屈に合わなければ先輩ととことん議論すべきである。また、特に科学的な理由もなく行われていることもある。プロトコールや先輩の言うことは神の言葉ではない。

§自立(しようと)すること

 研究者として成功しようと思えば、まず自らのテーマについて全面的な責任を持たなければならない(あるは持とうとしなければならない)。まず、自らのテーマについてイニシアティブをとれることが研究者としての自立への第一歩である。その後、いろいろな経験(後輩への指導・助言→小グループを持つ→大きなグループを率いる)を経て研究者として食べていけるようになる。

§信頼されること、信頼に応えること、信頼すること

 研究に限らず物事がうまく進むコツは、まず信頼を得ることから始まる。そのためには真摯に物事に当たることが最も重要である。次に、この信頼に応えることでより大きな信頼が得られる。さらに大事なことは今度はこちらが信頼することである。人と人との信頼関係の良い循環が生まれると大きなパワーにもなり、共通の達成感をエンジョイできたり、他人の喜びを自身の喜びと感じられる。

§9 PRINCIPLES OF SUCCESS "How You can hit Full Stride"(それぞれ自分の訳を書き記せ)

1. HAVE A DREAM
-create a vision for the future

2. DEVELOP A PLAN
-organize your thinking

3. CONTROL YOUR FOCUS
-don't do too many things at once

4. TAKE PERSONAL INITIATIVE
-act as if it all depends on you

5. PRACTICE SELF-DISCIPLINE
-don't be distracted, stay on target

6. LEARN TO BUDGET
-put your time, energy and money behind your plan

7. EVIDENCE ENTHUSIASM
-it's contagious

8. ENJOY YOURSELF
-laughter is healing

9. GO FOR IT!
-keep the faith no matter what.

IAN PERCY


よりよく進めるためのラボチップス (その2)

§指導的な立場に立ったあなたへ

 研究室のOB, OGもそれぞれの方面で指導的な立場に立ち、ラボや研究グループ、チーム、プロジェクトや部、課を指導するリーダーになってきました。そこで、以下はこれらのリーダーになった人たち、あるいはこれからなる人たちへのアドバイスです。以下、ラボと書いたところはどのような集団、組織に置き換えても通用すると思います。

§研究環境の創造とラボメンバーの自己実現

 ラボリーダーは、自由闊達で開放的かつ創造的な研究環境をラボ内に作り出し、ラボメンバーが自己実現(ラボあるいは研究生活における)を達成できることを目標として努力すべきです。

§科学研究はフェアな競走であり競争ではない

 科学研究はフェアな「競走」であるべきであって「競争」ではありません。つまり、ラボ内外において他者が走っていることを妨害するような行為はしてはならない、という当たり前の原理が徹底されることによって、よいラボメンバーの雰囲気が維持されます。つまり、自由闊達で開放的かつ創造的な研究環境がもたらされます。

§リーダーは常に見られている

 ラボメンバーは常にあなたを見ていることを自覚するべきです。また、その見方は一様ではなく、見る側の先入観やあなたへの期待は、その人の立場やその時の状況によってさまざまです。従って、リーダーはメンバーからどのような見方をされても対処できるように、自ら努力して常に高い見識と広い視野を持たなければなりません。

§リーダーの気分はすぐに伝播する

 リーダーの気持ちは(明るい気分も暗い気分も)ラボメンバーにすぐに伝染します。従って、ラボメンバーと接するときは、常に明るい前向きな気持ち接するべきです。たとえ、その時自分が暗い気持ちだったとしても、自らを奮い立たせて強いて笑顔で接しなければなりません。明るい気持ちで接すれば、相手も明るい気分になり、それがこちらに返ってきてこちらも楽しくなりよい循環が生まれます。いわゆる「ついている人」はいずれも明るく前向きな人です。


§理があれば

 「理」(ことわり)があれば人はみな従います。人間の脳はそういう仕組みになっています。健全な理をもってことにあたり、人にも接しましょう。道は拓けます。

§PM理論

 ラボリーダーは基本的にはPM理論(いくつかのバリエーションはあるにしても)にのっとるべきです。つまり、P機能(Performance function:目標達成機能)とM機能(Maintenance function:集団維持機能)の両方にバランスよく気を使うPM型(生産性を求めつつ、集団の維持にも気を配る)を理想とするべきです。Pm型(P型)(仕事に対しては厳しいが、グループのメンタルな維持には気を使わない)あるいはpM型(M型)(メンバーの面倒見はいいが、仕事では甘い面がある)はいずれも改善を要します。

§良いリーダーの六つの資質(1)「情熱」と「カリスマ性」

 この二つはラボを引っ張っていく上で情緒的に必要なものであり、リーダーの先天的な資質によるところも大きいですが、リーダー自身の日頃の努力(=自分自身への鼓舞)が必要です。

§良いリーダーの六つの資質(2)「ビジョン」と「知識」

 この二つはラボのパフォーマンスに関するものであり、ラボメンバーの研究方向に自信を与え、ラボに世界スタンダードの中での確固たる基盤を与えるものです。リーダーはラボメンバー以上に新しい知識の吸収が必要であり、先進的なビジョンの設定とメンバーへの不断の伝達が必要です。

§良いリーダーの六つの資質(3)「誠実さ」と「対話能力」

 この二つはラボのメインテナンスに関するものであり、共通目標をもった人間集団の健全な維持に最も基本的かつ不可欠な要素です。これ無くしてはラボの経営はなりえません。まずリーダーはこの点について努力すべきであり、長期的な成功には不可欠です。

§落ち着いた明るく晴朗な立ち振る舞い

 リーダーは落ち着いた静かな立ち振る舞いの中で、明るい晴朗な雰囲気を持っていることが理想です。これは、ラボメンバーに安心感と信頼を与えると同時に、対外的にも必須な形質です。

§現状への満足感

 100%満足できる環境はありえません。マイナス面ばかりに眼が行かず、自らの現状に80〜90%の満足と10〜20%の不満を持つことが、特にリーダーには肝要です。

§ごくごく普通の常識を尊重する

 自らもごくごく普通の健全な常識を尊重し、ラボ内でもごくごく普通の健全な常識が尊重されるべきです。そのためにはラボは出来るだけヘテロなメンバーで構成され(よりヘテロな集団にはより健全な常識が生まれます)、またラボ外との人の行き来など開放的な環境つくりが必要です。

§次世代の育成(1)

 当然ながら次の世代の人がラボから育っていきます。その場合、あなたに近くにいる人もいるだろうし、いろいろな意味で離れていく人もいます。しかし、それらの最終的な選択はもはや本人がするべきことです。その時にはラボリーダーはフェアな立場で善意の助言者として、その人のために真摯に出来る限りのことをすべきです。

§次世代の育成(2)

 リーダーとしての最大の喜びはラボメンバーが独立してそれぞれに自己実現している姿を目にすることです。新しい研究分野を切り拓き学界で大活躍の人もいるでしょう、小さなラボで小粒だが味の良い研究を継続している人もいるでしょう、研究を離れて別の仕事に就いている人もいるでしょう、あるいは家庭や地域などで貢献している人もいるでしょう。どのような形であれそれぞれの人があなたのラボで過ごした時に得た経験や考え方(ミーム)を受け継いで生きている姿を見ることがラボリーダーの最大の喜びです。


心が風邪を引いてしまった時に

§心が風邪を引いたように気持ちが落ち込み、鬱になってしまう時が誰にもあります。そんな時にヒントになるかもしれません。

§そんな時は、「これは心の風邪なので体の風邪のように誰にでもおこる、ゆっくり休めばそのうち治る」と思ってゆったりとくつろぐことです。

§くよくよしないで良い食事をして好きなものを食べましょう。

§「今日の私はこれからの人生の一番最初の日」と思いましょう。毎日、思えば前向きになります。

§深呼吸をしましょう。鼻からゆっくり息を吸う(4秒)、止める(2秒)、ゆっくり吐く(8秒)を4回繰り返しましょう。

§3日間、10時に寝ましょう。

§チャンスはいつもやっかいな顔をしてやってくる、困難は人生のスパイスだ、と逆手にとらえてみましょう。

§大震災などの時を思い出せば、自分は何かの目的で生かされているのだと思えます。そう思えば自分の前も見えますし、他人に対する優しさや思いやりが生まれます。

§上機嫌になるコツは、他人と比べない、ネガティブなことは考えないことです。

§働くということは自分の出来る事で相手を喜ばすことです。

§急がずに小さな楽しみを見つけましょう。

§実は人生はやっかいなことばかりです。しかし、すべてを捨て去るほど悪くはありません。

§誰にでも、暖かな太陽の日差しとさわやかな風は吹きます。

§現実の世界だけにいるとすべてが八方ふさがりに見えてしまいます。映画を見て別の人生を体験しましょう。そんな時はラブコメディーがおすすめです。

§(年をとったら)老いに至りて娯を益す、この世なる間は楽しみて、天命を楽しんで身を終るべし(貝原益軒)